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釧路地方裁判所 昭和29年(行)7号 判決

原告 株式会社相模屋商店

被告 釧路税務署長

主文

被告が昭和二十七年一月三十一日附でした原告の昭和二十四年度分所得金額を金百十九万五千八百七十六円とする更正決定の所得金額を金百六万五百二十五円と変更する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二十分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十七年一月三十一日原告に対してなした原告の昭和二十四年度所得金額を金百十九万五千八百七十六円とし、昭和二十五年度所得金額を金百三十三万五千九百円とする各更正決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、原告は食料品の卸小売を業とする株式会社であるが、昭和二十四年度分及び昭和二十五年度分の各法人税に関し、被告に対し確定申告として昭和二十四年度の所得金額を金三十二万八百七十六円五十九銭、昭和二十五年度の所得金額を金三十七万五百四十九円五十銭とそれぞれ申告したところ、被告は昭和二十七年一月三十一日付をもつて、昭和二十四年度の所得金額を金百十九万五千八百七十六円に、昭和二十五年度の所得金額を金百三十三万五千九百円にそれぞれ更正する決定をし、その旨原告に通知した。原告は右更正決定を不服とし被告に再調査の請求をしたところ、被告は昭和二十七年三月二十四日再調査請求を棄却する決定をなしその旨原告に通知したので、原告は更に札幌国税局長に審査の請求をしたところ、同国税局長は昭和二十九年四月三日審査請求を棄却する決定をなし、原告は該決定の通知書を同年同月六日受領した。原告が被告に対し確定申告をするにあたつては決算書類を添付したのにかかわらず、被告はこれを無視し一方的な認定にもとづき更正決定をしたもので右処分は違法であるからその取消を求めるため本訴に及んだものであると述べ、被告の答弁に対し、原告の昭和二十四年度及び昭和二十五年度の各所得金額は、それぞれ、原告が被告に対し確定申告した金三十二万八百七十六円五十九銭及び金三十七万五百四十九円五十銭である。しかしてその計算の根拠は次のとおりである。

昭和二十四年度分

(一)  収入の部

売上総額 三四、〇四六、八三〇円五〇銭

在庫品   二、〇八三、二四五円

合計   三六、一三〇、〇七五円五四銭

(二)  支出の部

繰越商品  一、〇六七、六〇五円

総仕入高 三二、七四九、五九〇円八五銭

諸経費   一、九八七、〇〇三円一〇銭

償却費       五、〇〇〇円

合計   三五、八〇九、一九八円九五銭

(三)  右収入支出の差額は三二〇、八七六円五九銭となり、これが昭和二十四年度分の所得である。

昭和二十五年度分

(一)  収入の部

売上総額 三七、八一二、三六一円

在庫品   二、四二六、二四六円

合計   四〇、二三八、六〇七円

(二)  支出の部

繰越商品  二、〇八三、二四五円

仕入総額 三四、五二八、一六四円八八銭

諸経費   三、二四九、一四七円六二銭

償却費       七、五〇〇円

合計   三九、八六八、〇五七円五〇銭

(三)  右収入支出の差額は三七〇、五四九円五〇銭となり、これが昭和二十五年度分の所得である。

昭和二十五年度の諸経費出費が昭和二十四年度のそれより増加しているのは、一般物価が値下りしたことと、総売上高を増加させるために人件費その他の経費支出が増大したためである。なお原告会社の卸売と小売の売上割合は約半々で、薄利多売を旨としているため、総売上金に対する諸経費控除前の利益率は昭和二十四年度分七歩二厘強、昭和二十五年度分九歩五厘弱であつた。被告の主張事実中原告の主張に反する部分は否認すると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、原告が被告に対し確定申告をする際決算書類を添付したとの点、被告のなした更正決定が被告の一方的な認定にもとずく違法な処分であるとの点を除き、その余の事実を認める。原告は札幌国税局長に対し審査請求をするにあたり、昭和二十四年度及び昭和二十五年度の決算書類を作成添付したが、右書類の基礎となつた伝票、帳簿との間に不突合があるばかりでなく、右伝票、帳簿も取引の一部分について記帳保存されているにすぎず、しかもその内容は、相互に計算の誤謬、脱漏があり不正確であるから、右決算書類のみによつて原告の所得を決定することはできない。

そこで推計計算の方法によることにする。

(一)  総売上高の算定、原告備付の帳簿類中比較的内容の妥当と認められた仕入原票及び振替原票の中、前者には、日日の現金仕入、買掛支払、諸経費の支払その他の支出金を記録してあり、この支出合計とその日の現金残とを合算したものから売掛入金を減算し、それをもつてその日の現金売上高として整理してあるので、これにより現金売上高を算定し、次に後者即ち振替原票には日日の売掛が記録してあるので、これにより掛売金高を算定したところ、各年度分の種目別総売上高は次のようになる。

昭和二十四年度分

菓子  七、七七〇、一〇〇円 青果物  三、五二五、六四〇円

魚類  四、二四四、四六〇円 食料品 一八、六八九、三一六円

合計 三四、二二九、五一六円

昭和二十五年度分

菓子  八、三五六、〇二八円 青果物  三、七九一、五〇二円

魚類  四、五六四、五二六円 食料品 二〇、〇九八、六三九円

合計 三六、八一〇、六九五円

(二)  営業利益の算出、精密な統計資料により算出した業種別所得率を右各業種別総売上高に適用して、営業利益を算出すると、次のようになる。

昭和二十四年度分

菓子    六〇六、〇六七円 青果物    三二〇、一二六円

魚類    四九二、三五六円 食料品 一〇、一九六、一一五円

合計  二、六一四、六六四円

昭和二十五年度分

菓子    六六六、八〇九円 青果物    三七〇、四二八円

魚類    五〇三、九二二円 食料品  一、三一四、四四九円

合計  二、八五五、六〇八円

(三)  損金の認定、原告の経費中これを損金と認定したものは次のとおりである。

昭和二十四年度分

代表者給料 一四四、〇〇〇円 雑損   一、二〇〇、〇〇〇円

家賃     六〇、〇〇〇円

合計  一、四〇四、〇〇〇円

昭和二十五年度分

代表者給料 三六〇、〇〇〇円 雑損     八五〇、〇〇〇円

家賃    一二〇、〇〇〇円

合計  一、三三〇、〇〇〇円

(四)  原告の所得は結局前記各年度分の営業利益の合計から損金の合計を控除したものである。

昭和二十四年度所得 一、二一〇、六六四円

昭和二十五年度所得 一、五二五、六〇八円

以上の外原告は両年度とも酒類の販売をしたことがあるから、これを計算に入れれば所得は更に増すが、一応これを除外しても、原告の右両年度分の各所得額はいずれも被告のなした更正決定の所得額を超えるものであるから原告の主張は失当であると述べた。(立証省略)

理由

原告が食料品の卸小売を業とする株式会社で、昭和二十四年度分及び昭和二十五年度分の各法人税に関し、被告に対し、確定申告として昭和二十四年度の所得金額を金三十二万八百七十六円五十九銭、昭和二十五年度の所得金額を金三十七万五百四十九円五十銭とそれぞれ申告したところ、被告は昭和二十七年一月三十一日付をもつて昭和二十四年度の所得金額を金百十九万五千八百七十六円に、昭和二十五年度の所得金額を金百三十三万五千九百円にそれぞれ更正する決定をなし、その旨原告に通知したが、原告は右更正決定を不服とし被告に再調査の請求をしたところ、被告は昭和二十七年三月二十四日再調査請求を棄却する決定をなしその旨原告に通知したので原告は更に札幌国税局長に審査の請求をしたところ、同国税局長は昭和二十九年四月三日審査請求を棄却する決定をなし、原告は該決定の通知書を同年同月六日受領したものである事実は当事者間に争いがない。

原告は、原告が被告に対し確定申告をするにあたり決算書類をこれに添付したにもかかわらず、被告はこれを無視し一方的な認定にもとずき更正決定をなした旨主張し、その提出にかかり成立に争いのない甲第五号証(昭和二十四年度貸借対照表、損益計算書、及び附属明細書)の貸借対照表、損益計算書には原告の昭和二十四年度分確定申告額に符合する金三十二万八百七十六円五十九銭が昭和二十四年度の当期利益金として掲げられ、又甲第六号証(昭和二十五年度貸借対照表、損益計算書及び附属明細書)の貸借対照表、損益計算書には昭和二十五年度分確定申告額に符合する金三十七万五百四十九円五十銭が昭和二十五年度の当期利益金として掲げられているが、証人吉田司馬男、塩崎徳男(第一回)、上杉章(第一回)、刀根敏男の各証言を総合すると、釧路税務署係官が当初昭和二十七年一月中旬頃原告方を調査した際、原告方に備付されていた会計書類としては、売上額、現金額、掛売額等を一冊にまとめて記入してある大判ノート、仕入原票及び売掛原票のみであつて、その余の株式会社としての正規の帳簿書類は何も備えていなかつたこと、甲第五第六号証の決算書類は、原告が被告より更正決定を受け、更に再調査請求を棄却されて後札幌国税局長に対し審査請求をなすにあたり作成しこれに添付して提出したものであることが認められ、しかも成立に争いのない乙第一号証、乙第二号証、証人塩崎徳男(第一、二回)、刀根敏男、上杉章(第一回)の各証言を総合すると、右甲第五、第六号証の決算書類には、帳簿上既に支払済みのものを再び買掛金として計上してある等、帳簿との不突合いが見られ、又原告が右決算書類作成の基礎としたと見られる前記大判ノートと仕入原票及び売掛原票との間にも相互に記載洩れ、計算誤りが発見され、更に、原告が札幌国税局長に対する審査請求の段階で、札幌国税局協議団の調査に応じて提出した元帳、金銭出納簿、仕入原票、振替原票等の間にも相互に多くの不突合、脱漏、誤謬が見られたこと、即ち右のような帳簿伝票及びこれを基礎にした決算書類の内容はいずれも不正確なものと認められる。証人上杉章の証言中右認定に副わない部分は措信できない。従つて結局原告の主張する決算書類のみによつてその所得を認定することはできない。そこで、被告の主張する推計計算の当否について考えてみる。

(一)  総売上高の算定 証人塩崎徳男(第一、二回)、刀根敏男の各証言及び本件口頭弁論の全趣旨によると、原告会社においては日日の現金支出額と現金残額との合計から掛入金額を差引いた額をもつてその日の現金売上高とする方法をとつており、原告備付の帳簿伝票中比較的妥当な内容をもつと認められる仕入原票、振替原票を基礎にし、右方法により現金売上高及び掛売金額を推算し、これを種目別に合計すると昭和二十四年度及び昭和二十五年度の各売上金額は次のようなものであることが認められる。

昭和二十四年度分

菓子  七、七七〇、一〇〇円 青果物  三、五二五、六四〇円

魚類  四、二四四、四六〇円 食料品 一八、六八九、三一六円

合計 三四、二二九、五一六円

昭和二十五年度分

菓子  八、三五六、〇二八円 青果物  三、七九一、五〇二円

魚類  四、五六四、五二六円 食料品 二〇、〇九八、六三九円

合計 三六、八一〇、六九五円

右の認定に反する甲第五、第六号証及び証人上杉章の証言部分は措信しない。なお、原告が主張しかつ右甲号証で立証しようとした総売上金額は、昭和二十四年度につき三四、〇四六、八三〇円五四銭、昭和二十五年度につき三七、八一二、三六一円で、いずれも右認定の金額と大差なく昭和二十五年度分については、右認定の額よりもむしろ多額を主張している点から考えても右認定の額はこれを相当とすべきである。

(二)  営業利益金の算定、総売上高が明らかな場合、これに一定の妥当な所得標準率(利益率)を乗じて営業利益金を算出することができるものと考えるべきところ、証人塩崎徳男は、当時国税局で業種別に調査決定した所得標準率は、昭和二十四年度分につき、菓子、青果物、食料品が各売上高百円につき十五円、魚類が十七円昭和二十五年度分につき、菓子が売上高百円につき十六円、食料品が十六円五十銭、青果物及び魚類が十七円であつて、札幌国税局は右標準率を適用して、原告の営業利益金を算出した旨供述するが、前記(一)で認定のごとく、原告の売上高は卸売及び小売の双方によるものであるから、所得標準率も、種目別であると同時に更に卸売と小売とを別つてこれを決定し適用すべきものであるにかかわらず、右供述にあらわれた所得標準率は、この点を考慮したものか否か明らかでない。又かりにこの点を一応おき、右種目別標準率を前記(一)認定の各売上額に適用した場合、その利益金額は、被告主張のそれよりもはるかに多額なものとなり、被告の主張する営業利益金額は果していかなる標準率をどのように適用した結果なのか了解に苦しむところである。そのようなわけで、塩崎証言にあらわれた各所得標準率は、にわかに妥当なものと認めるわけにはいかない。ところで、原告はこの点につき、原告会社の卸売と小売の売上割合は約半々で、薄利多売を旨とするため、総売上金に対する諸経費控除前の利益率は昭和二十四年度分七歩二厘強、昭和二十五年度分九歩五厘弱であつた旨主張する。右に云う利益率が、果して種目別及び卸売小売別に見てどのような意味をもつものか明らかでない点、先の塩崎証言における所得標準率の場合と変りないが、ともかく、昭和二十四年度の利益率につき、それが七歩二厘強に達したとする範囲において、又昭和二十五年度の利益率につき、それが九歩五厘弱に達したとする範囲において、それらは被告の主張に対する自白と考えられる。そこで前記(一)で認定の各年度の売上合計額に、原告主張の右各利益率をそれぞれ乗ずると、営業利益金は次のようなものとなる。

昭和二十四年度分 二、四六四、五二五円(但し円未満切捨)

昭和二十五年度分 三、四九七、〇一六円(同右)

(三)  損金の算定 証人塩崎徳男(第一回)、上杉章(第二回)の各証言及び本件弁論の全趣旨を総合すると、

昭和二十四年度分

代表者給料 一四四、〇〇〇円 雑損 一、二〇〇、〇〇〇円

家賃     六〇、〇〇〇円

合計  一、四〇四、〇〇〇円

昭和二十五年度分

代表者給料 三六〇、〇〇〇円 雑損   八五〇、〇〇〇円

家賃     一二、〇〇〇円

合計  一、三三〇、〇〇〇円

を損金と認めるのが相当である。原告は諸経費として、昭和二十四年度一、九八七、〇〇三円一〇銭、昭和二十五年度三、二四九、一四七円六二銭をそれぞれ支出した旨主張し、前顕甲第五、第六号証には右の主張に副う記載がなされているが、右記載は唯勘定科目の諸経費欄に右金額を掲上してあるのみで、当然これに付すべき諸経費の内訳明細書の記載がなく、全く具体性のない記載にすぎないので、にわかにこれを措信することはできず、他にも右の主張を認めるに足る証拠はない。

(四)  原告の所得金額は結局前記(二)の営業利益金から(三)の損金を控除した金額、即ち、昭和二十四年度金百六万五百二十五円、昭和二十五年度金二百十六万七千十六円である。原告は、被告が昭和二十三年度個人営業当時の所得金額につき、これを金百万円から金四十三万円に減額訂正した事実があり、従つて、昭和二十四年度以降において会社に組織替えした原告会社の所得金額も、その実体において以前と大差ないものである以上、昭和二十三年度と同様に考えるべきものであるとして、甲第七号証を提出し、成立に争いのない右甲号証によると、釧路税務署長が昭和二十四年九月三十日付で飯塚吉明に対する昭和二十三年度分所得金額を、当初の決定額金百万円から金四十三万円に減額決定した事実を認めることができるが、原告代表者飯塚吉明尋問の結果によると、昭和二十四年三月以前においては、飯塚ら四名の業者が集り個々に魚類、青果物、菓子などの販売をしており、同年同月これを会社組織とし、原告会社を設立し、飯塚が代表者となつたが、経営実体は以前と変りなかつたこと、昭和二十三年度においては右飯塚ら四名に対し金百万円の課税がなされたので、これを四名の間に振り当て納税したところ、飯塚に対しては更に金百万円の課税通知がなされたので、同人からその取消方を交渉したところ、税務署は調査の上これを金四十三万円に減額訂正(甲第七号証をもつて飯塚宛通知)すると共に、これと、飯塚が先に四名間の割当て分として納付した金四十三万円とを相殺したので、結局、飯塚は先に割当て分として納付した金四十三万円の外は納税せずに済んだことを推認することができる。即ち、以上認定の各事実を総合すると被告は昭和二十三年度において、原告会社の前身として実体に大差のない飯塚ら四名の営業に対し、その所得を金百万円と認定し甲第七号証で飯塚の負担額を右百万円のうちの四十三万円と決したものであることが分るのであつて、むしろ、右の点からも前記認定の昭和二十四年度及び昭和二十五年度の原告の所得金額の妥当性をうかがい知ることができるのである。又、甲第五、第六号証中、前記認定に反する利益金額の記載部分は措信できず、他にも前記認定をくつがえすに足る証拠はない。被告は原告が両年度とも酒類の販売をしたことがあるから、これを計算に入れれば所得は更に増加する旨主張するが、証人吉田司馬男の証言によれば原告が酒の販売をしたことはあるが、その取扱量はとりたてるほどのものではなかつたことがうかがわれ、他に酒販売による原告の所得額を証するに足る証拠はないから、右主張は採用できない。

以上のとおり、原告は昭和二十四年度おいて、被告の更正決定を下廻る金百六万五百二十五円、昭和二十五年度において、更正決定を超える金二百十六万七千十七円の所得があつたものといわねばならない。そこで、原告の本訴請求中、昭和二十五年度分の更正決定の取消を求める部分は失当であるからこれを棄却し、昭和二十四年度分の更正決定の取消しを求める部分は、金百六万五百二十五円を超える部分につき該更正決定は違法であるからその範囲で原告の請求を正当として認容するがその余は失当としてこれを棄却し、被告のなした昭和二十四年度分の更正決定を主文第一項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本金弥 有重保 桜井敏雄)

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